「へぇ~そぉんな優しい声で電話出るの、ちーちゃん。仕事中はクールなくせに。」
『彩羽さん?』
「すみません!彩羽さんにスマホを取られてしまって…。」
電話越しに深いため息が返ってきた。それに対してすぐに反応したのは彩羽だった。
「あ~なっちゃんじゃないからってわかりやすくがっかりしないでくれる?超失礼なんだから!っていうか、圧倒されてないってどういう意味?」
『…そのままの意味ですよ。彩羽さん、パワーが強いから、名桜は気圧されちゃうかなって思いまして。少し心配になりました。』
「なっちゃん相手に、ちーちゃんとがつがつやり合うみたいにするわけないじゃん!」
「がつがつやり合う…?」
名桜は二人の言葉をよく飲み込めず、頭上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。二人は恋愛映画を撮影していたはずで、それに二人の間には確かに『初恋』にも似た空気感があったはずなのに、その雰囲気と『がつがつ』という音が嚙み合わない。
「ちーちゃんとの撮影って食うか食われるかみたいな緊張感あるんだよ。」
「そう、なんですか?お二人、すごく仲良さそうに色々話し合っていたので、外から見るとそんな感じでは全くなく…。」
「ふわっとした空気を纏ったサイボーグなんだよ、ちーちゃんって。片目からだけ涙落とせるしさ。正確なタイミングで泣くの、怖って感じじゃない?負けてらんないーって気合入るから、結果がつがつしちゃうの。」
「いえあの、全然そんな雰囲気はなくて、恋がありましたよ、二人の間には。」
柔らかい空気感の中に、確かに見える思いの交わる点。それが綺麗で、初恋がこんな風だったら、きっと一生この人と添い遂げるのだろうなんて思う。少女漫画特有の美化された描写だとわかっていても少し、憧れた。その空気も視線も、二人が作っていた。繊細な、見えない心を画面に映すために。
『夜更かししないで寝てくださいね、彩羽さん。』
「あー!また子供扱いする!なっちゃん、一緒に寝よ!ちーちゃん全然可愛くないからもう切っちゃお。おやすみ!」
「ご心配おかけしました。大丈夫です。楽しく過ごしてます。知春さんもゆっくり休んでくださいね。…おやすみなさい。」
「…ん。おやすみ。」
* * *
向こうはスピーカーだったのだろうが、こっちは耳を当てて聞いていたせいで、『おやすみなさい』の響きがじわじわと耳に残る。彩羽に指摘されて初めて、自分の声が彩羽にわかる程度に変質していたことに気付いた。
「…まずいね…よくない。このままじゃ。」
彩羽はいい。でも、きっと他の人に気付かれてはいけない。そうなる前に、少し落ち着かなくては。そう言い聞かせて、知春は睡眠前のルーティンに入った。
『彩羽さん?』
「すみません!彩羽さんにスマホを取られてしまって…。」
電話越しに深いため息が返ってきた。それに対してすぐに反応したのは彩羽だった。
「あ~なっちゃんじゃないからってわかりやすくがっかりしないでくれる?超失礼なんだから!っていうか、圧倒されてないってどういう意味?」
『…そのままの意味ですよ。彩羽さん、パワーが強いから、名桜は気圧されちゃうかなって思いまして。少し心配になりました。』
「なっちゃん相手に、ちーちゃんとがつがつやり合うみたいにするわけないじゃん!」
「がつがつやり合う…?」
名桜は二人の言葉をよく飲み込めず、頭上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。二人は恋愛映画を撮影していたはずで、それに二人の間には確かに『初恋』にも似た空気感があったはずなのに、その雰囲気と『がつがつ』という音が嚙み合わない。
「ちーちゃんとの撮影って食うか食われるかみたいな緊張感あるんだよ。」
「そう、なんですか?お二人、すごく仲良さそうに色々話し合っていたので、外から見るとそんな感じでは全くなく…。」
「ふわっとした空気を纏ったサイボーグなんだよ、ちーちゃんって。片目からだけ涙落とせるしさ。正確なタイミングで泣くの、怖って感じじゃない?負けてらんないーって気合入るから、結果がつがつしちゃうの。」
「いえあの、全然そんな雰囲気はなくて、恋がありましたよ、二人の間には。」
柔らかい空気感の中に、確かに見える思いの交わる点。それが綺麗で、初恋がこんな風だったら、きっと一生この人と添い遂げるのだろうなんて思う。少女漫画特有の美化された描写だとわかっていても少し、憧れた。その空気も視線も、二人が作っていた。繊細な、見えない心を画面に映すために。
『夜更かししないで寝てくださいね、彩羽さん。』
「あー!また子供扱いする!なっちゃん、一緒に寝よ!ちーちゃん全然可愛くないからもう切っちゃお。おやすみ!」
「ご心配おかけしました。大丈夫です。楽しく過ごしてます。知春さんもゆっくり休んでくださいね。…おやすみなさい。」
「…ん。おやすみ。」
* * *
向こうはスピーカーだったのだろうが、こっちは耳を当てて聞いていたせいで、『おやすみなさい』の響きがじわじわと耳に残る。彩羽に指摘されて初めて、自分の声が彩羽にわかる程度に変質していたことに気付いた。
「…まずいね…よくない。このままじゃ。」
彩羽はいい。でも、きっと他の人に気付かれてはいけない。そうなる前に、少し落ち着かなくては。そう言い聞かせて、知春は睡眠前のルーティンに入った。



