「家が近所の、中高の先輩でね。なんとなくぼんやりと好きだなって思ってたんだけど、中学2年とかの時にお父さんに捨てられちゃってさ、お母さんが。そこからは荒れに荒れて。で、男に走って。最悪なのがさ、お母さんが連れてくる男って、結局お母さんに子供がいるってわかると、シングルマザーが嫌だーっていなくなってくれればいいのに、そうじゃなくて。私っていう若い女がよくなっちゃうんだよね。女っていうか、まだ子供なんだけどってあの時も今も思う。…でも少なくとも、私が見ていた現実はそう。だから、お母さんが男のところに行ってくれる日は安心できて、そうじゃない日は逃げ場を探してた。…その時に拾ってくれたのが、その人。」
「どんな方なんですか。その、性格とか…。」
一度遠くを見つめて、ゆっくりと大きな瞳が閉じられた。その脳裏には、光の記憶がきっとある。
「口数は多くなくてね。向こうは両親いたんだけど、忙しくてほぼ家にいないみたいな。だから私が逃げ込むには丁度良かった。そこで襲われるって可能性もあったのに、私は差し出された手が優しくて、あの家から逃げたくてその手を取った。…一度もね、襲われたことなんてないし、抱きしめられたことすらない。でもそこからずっと、同じ距離でいてくれた。辛いときに逃げ込めるように、近くにいてくれた。ちょっとどうでもいいことを話して、渡されたお金で何か買って一緒に食べて。家族がいない私の、彼は多分、家族の感覚を与えてくれた人。…だからね、会いたいんだ。この話、ここまで生々しくは話しちゃだめって言われてるけど、感謝してる人がいるってことは話していいってOK出たんだ。話してるところも撮るらしいから、なっちゃんがいいなって。なっちゃんに、今の私と、彼を探してる『高校生の私』を一緒に撮ってもらいたいんだ。」
時計の秒針の音だけが響く。正式に引き受けるにはスケジュールを確認しなくてはならないが、気持ちとしては引き受けたかった。
「ぜひ、やらせてください。」
「…ありがと。やっぱりね、なっちゃんは真面目。ちーちゃんも真面目。だから二人で、いい作品が作れる。…いいなぁって、思った。信頼して、信頼されて。そういう関係。今は恋とか愛みたいな強い感情は私には邪魔で、だからこそ今の二人の関係が、羨ましくていいなぁって思っちゃったよ、本当に。」
独り言みたいに落ちた言葉たちが溶ける前に拾い集めて、取っておきたい。そんな気持ちに駆られた名桜は、彩羽の手にそっと自分の手を重ねた。
「どんな方なんですか。その、性格とか…。」
一度遠くを見つめて、ゆっくりと大きな瞳が閉じられた。その脳裏には、光の記憶がきっとある。
「口数は多くなくてね。向こうは両親いたんだけど、忙しくてほぼ家にいないみたいな。だから私が逃げ込むには丁度良かった。そこで襲われるって可能性もあったのに、私は差し出された手が優しくて、あの家から逃げたくてその手を取った。…一度もね、襲われたことなんてないし、抱きしめられたことすらない。でもそこからずっと、同じ距離でいてくれた。辛いときに逃げ込めるように、近くにいてくれた。ちょっとどうでもいいことを話して、渡されたお金で何か買って一緒に食べて。家族がいない私の、彼は多分、家族の感覚を与えてくれた人。…だからね、会いたいんだ。この話、ここまで生々しくは話しちゃだめって言われてるけど、感謝してる人がいるってことは話していいってOK出たんだ。話してるところも撮るらしいから、なっちゃんがいいなって。なっちゃんに、今の私と、彼を探してる『高校生の私』を一緒に撮ってもらいたいんだ。」
時計の秒針の音だけが響く。正式に引き受けるにはスケジュールを確認しなくてはならないが、気持ちとしては引き受けたかった。
「ぜひ、やらせてください。」
「…ありがと。やっぱりね、なっちゃんは真面目。ちーちゃんも真面目。だから二人で、いい作品が作れる。…いいなぁって、思った。信頼して、信頼されて。そういう関係。今は恋とか愛みたいな強い感情は私には邪魔で、だからこそ今の二人の関係が、羨ましくていいなぁって思っちゃったよ、本当に。」
独り言みたいに落ちた言葉たちが溶ける前に拾い集めて、取っておきたい。そんな気持ちに駆られた名桜は、彩羽の手にそっと自分の手を重ねた。



