リナリア

「あの人だけは、本当。あの頃までの私の人生で、あの人だけが、…私のありえない毎日の中で唯一差し込んだ光でね。でもね、これで今も繋がってて、連絡が取れてたら良かったんだけど。」
「今は、連絡ができない…？」

　彩羽が静かに頷いた。名桜の頭の中では様々な可能性が浮かんでは消える。卒業してしまった、彩羽が引っ越した、芸能界に入ったことで関係を切らざるを得なくなった、亡くなってしまった…？最悪の答えにたどり着いて、名桜は頭をぶんぶんと横に振った。

「おーい、なっちゃん～？大丈夫？」
「大丈夫です。すみません、…その、どうしてかなって考えて…。」
「死んじゃってはない、と思いたいんだけどね。でもそれすらもわかんないから、もう一回会うっていうのをね、今は私の目標にしてるんだ。そのために、有名になりたい。どこで向こうが見つけてくれるかわかんないから。でね、なんでこの話をしたかっていうと、なっちゃんに手伝ってほしいことがあるからなんだ。」

　突然飛躍した話に、名桜は目を丸くした。自分が自信をもってできることと言えば写真を撮る、多少トリミングをするくらいのもので、人探しに役立つスキルなどは持ち合わせていない。情報通でもなければ、顔が広いわけでもない。

「今度ね、私の特集を結構がっつり組んでくれるんだって、雑誌で。映画があるから、それを踏まえてのインタビューみたいなんだけど。そこでの私の写真を、なっちゃんに撮ってほしいんだ。」
「それはその…スケジュールが合えばもちろん可能ですが、でもどうして…？」

　彩羽はふぅと小さく息を吐いてから、微笑んだ。それはいつもとは違う、静かな笑顔だった。

「なっちゃんやちーちゃんといると、なんだろうなぁ、高校生の時の自分が戻ってくるみたいな気がして。二人見てて、そういえばこういう距離にいたのになぁって。」

　知春との距離は決して近いものではないはずだ。幼馴染でもないし、かといってただのカメラマンと俳優という仕事だけの関係性でもない。時折、考える。知春との関係に名前をつけるとしたらそれは何だろうか、と。