リナリア

「なっちゃんに着てもらいたいの、組み合わせてみたから試着お願い!」
「えっ…わっ!」

 ぐいぐい押されて試着室に押し込まれる。手渡されたのはフリルネックの白いブラウスに、タイトなネイビーのパンツだった。

「サイズ、どう?」
「着れますけどあの…普段着ない感じなのでちょっと似合ってるか…」

 カーテンを開けて彩羽の前に出る。すると彩羽はにこっと満面の笑みを浮かべた。

「あ、やっぱ似合う!仕事のときにどう?」
「確かに動きやすくていいです。あんまり着たことがないタイプなので…大丈夫ですか?」
「うん、すっごい似合ってる!ちょっと可愛くて、でも仕事できる感も出てる!」
「あっ、それはありがたいです。いつも同じ服装になってしまうので…。」
「相手に似合う服考えるの、楽しいね。あ、普通の高校生って他にはどういうことするの?」
「…えっと…そうですね、放課後のちょっとした買い食いとか、雑貨屋さんを見たりとか…ですかね。とはいえ、私も数えるくらいしかやったことがないですけど。」
「そうなの?」
「はい。特に今年は、ありがたいことに私個人への仕事も増えまして。だから友達とはあまり…。」
「そっかそっか。いいことだけど、ちょっと寂しい?」
「寂しい…んですかね。そういうことを考える暇もなく走ってきた感じがあって…でも学校で会えばいつも二人とも変わらないから…。ありがたい存在だなとは思っています。」

 七海と蒼のことを思い浮かべる。いつも名桜が無理していないか心配してくれて、いつでも変わらぬ安心感で迎えてくれる。そんな二人のことは大切だ。

「そっかぁ。なっちゃんがいい子だから、ちゃんとなっちゃんの周りにもいい子がいる。…そういうの、いいね。」
「彩羽さん…?」

 一瞬、表情が曇ったように見えた。しかし見間違いだったのかと思うほどにその表情は消え、いつも通りの笑顔に戻っている。

「あ、そういうのも似合うね、名桜。」
「知春さん。」
「ちーちゃんは何持ってきたの?」
「これです。」

 名桜の首元にふわりと巻かれた、マフラー。

「あれ、人の首に巻いてあげるのって難しいですね。ごめん、苦しくない?」
「だ、大丈夫です。」

 少し悪戦苦闘しながらもなんとか巻き終えると、知春も優しい笑みを浮かべた。

「うん。名桜はこの色が似合うかなって。持ってる上着とかに合う色じゃなかったら別の色も結構あったよ。」

 白を基調とした生地にグレーのチェック模様が入っているマフラーだ。