「知春さん、もう少し視線、右上にお願いします。」
彩羽の視線を延長した先と、知春の視線を延長した先が交わるところ。そこを中心にした構図でシャッターを複数回切る。ふと、知春の手が彩羽の手に触れた。知春がそのままぎゅっと握ると、彩羽の目が見開かれた。
「ちょっ…ちーちゃん?」
慌てて振り返る彩羽に知春はははっと笑って返す。名桜はそのままシャッターを切り続ける。
「びっくりした?…びっくりするかもって思ったけど、つい。」
声のトーンも、いたずらっ子みたいな笑みも、『知春のもの』ではなかった。それを瞬時に飲み込んだ彩羽は、一度戻った『彩羽』を押し戻し、『杏』を連れてくる。
「…つい、じゃ…ないですよ。」
ゆっくりと下にずれていく杏の視線。目が合わなくなっていく様を、それでも嬉しそうに眺める大和。シャッターを切る手が止まらなかった。ふと、知春が名桜のカメラの方を向いた。
「すごいシャッター音だった。連写なんて珍しいね、名桜。」
「いきなりのアドリブでしたし、何がいいかは撮っておかないと厳選できないので。」
「それもそうか。いいの、撮れた?」
「私が動揺してなければ、はい!」
「ちょっとちーちゃん…?どういうつもり…?」
知春のことを少し怒った顔で睨みつける彩羽が、知春ににじり寄った。知春は変わらずに軽く笑みを浮かべている。
「大和なら、ちょっといたずら心が湧いて、触れたくなるかなって。」
「そういうのさぁ、事前にちょっと相談してもらってもいいかなぁ?一瞬『私』が出ちゃったんだけど?」
「でもすぐに『杏』に戻ったでしょう、彩羽さん。僕の意図に気付いて。」
「だって全然ちーちゃんの間合いじゃなかったじゃん、話し方が。」
何でもないことのように彩羽はそう言うが、名桜の方は心臓がバクバクしていた。演技とはこういうものなのだということを、改めて見せられた、そんな気がした。知春が渡り歩いているのはこういう世界なのだ。冷静に考えると、知春が演技をしているところはあの文化祭の舞台を除けば初めてだった。文化祭は知春以外、ただの素人の高校生。しかし今は違う。演技で生きる人、空気の中にいる知春は、まるで別人だった。
彩羽の視線を延長した先と、知春の視線を延長した先が交わるところ。そこを中心にした構図でシャッターを複数回切る。ふと、知春の手が彩羽の手に触れた。知春がそのままぎゅっと握ると、彩羽の目が見開かれた。
「ちょっ…ちーちゃん?」
慌てて振り返る彩羽に知春はははっと笑って返す。名桜はそのままシャッターを切り続ける。
「びっくりした?…びっくりするかもって思ったけど、つい。」
声のトーンも、いたずらっ子みたいな笑みも、『知春のもの』ではなかった。それを瞬時に飲み込んだ彩羽は、一度戻った『彩羽』を押し戻し、『杏』を連れてくる。
「…つい、じゃ…ないですよ。」
ゆっくりと下にずれていく杏の視線。目が合わなくなっていく様を、それでも嬉しそうに眺める大和。シャッターを切る手が止まらなかった。ふと、知春が名桜のカメラの方を向いた。
「すごいシャッター音だった。連写なんて珍しいね、名桜。」
「いきなりのアドリブでしたし、何がいいかは撮っておかないと厳選できないので。」
「それもそうか。いいの、撮れた?」
「私が動揺してなければ、はい!」
「ちょっとちーちゃん…?どういうつもり…?」
知春のことを少し怒った顔で睨みつける彩羽が、知春ににじり寄った。知春は変わらずに軽く笑みを浮かべている。
「大和なら、ちょっといたずら心が湧いて、触れたくなるかなって。」
「そういうのさぁ、事前にちょっと相談してもらってもいいかなぁ?一瞬『私』が出ちゃったんだけど?」
「でもすぐに『杏』に戻ったでしょう、彩羽さん。僕の意図に気付いて。」
「だって全然ちーちゃんの間合いじゃなかったじゃん、話し方が。」
何でもないことのように彩羽はそう言うが、名桜の方は心臓がバクバクしていた。演技とはこういうものなのだということを、改めて見せられた、そんな気がした。知春が渡り歩いているのはこういう世界なのだ。冷静に考えると、知春が演技をしているところはあの文化祭の舞台を除けば初めてだった。文化祭は知春以外、ただの素人の高校生。しかし今は違う。演技で生きる人、空気の中にいる知春は、まるで別人だった。



