リナリア

* * *

「伊月さんと兼坂さん、入ります。」
「よろしくお願いしまーっす!」
「お願いします。」

 衣装合わせを終え、今後の宣伝に使われるポスターや、SNSの広告用の撮影の時間となった。衣装合わせが早めに終わったため、時間が少し巻いた。全体的に進行がスムーズで、現在のところ遅れは見られない現場である。

「ねぇ、ちーちゃん。」
「なんですか、兼坂さん。」
「彩羽でいいって言ったのにー!」
「じゃあ彩羽さん、どうしましたか?」
「今日じゃなかったっけ、ちーちゃんのお気に入りちゃんが来るの。」
「…お気に入りとかではなく、すごく仕事のできるカメラマンですね、正式には。」
「麻倉名桜。」

 突然フルネームで名桜の名前を呼ばれて、知春は足を止めて振り返った。

「…名前、ご存知だったんですね。」
「私の事務所のモデルたちがお世話になってるみたいで、よく話してるもん。カメラマンが名桜ちゃんだと気持ちも楽だよねとかなんとか。だから私も興味あるんだ、仲良くなれるかな?」
「…なれると思います。」
「どうして?」
「名桜と仕事するの、楽しいですから。」

 彩羽の後ろの方に動画用の大きな機材が複数ある。知春はさらにその奥に名桜を見つけた。少し難しい顔をしながら葉月と打ち合わせをしているようだ。打ち合わせが終わったのか、名桜はカメラを携えて小走りで彩羽と知春のところにやってきた。

「メインのポスター撮影の前に数パターン撮らせていただきます、麻倉と申します。よろしくお願いします。」
「えっ、本物可愛いんだけど!」
「あっ、はい?え?」

 彩羽の目は普通にしていても黒目がちで大きいが、今はさらに大きく、そしてキラキラと輝いている。

「えーこんな可愛い感じの子だったの?ちーちゃんがしごできタイプの子って言ってたから、もっと真面目全開!みたいな子かと思ってたよ~。」
「えっと…あの、真面目に仕事をする予定ではありますが…?」

 困惑する名桜は珍しくて、つい知春は助け船も出さずにぷっと吹き出した。いつも彩羽にペースを乱されてばかりであるため、ここは名桜にも同じ目に遭ってもらうことにする。