文化祭も最終日の後夜祭を残すのみとなった。校庭に設置されたステージでのカラオケ大会やバンドの演奏など、ある種のライブ感で盛り上がっている。
 名桜は写真部の片付けのあと、学校の行事記録の写真撮影を依頼され、屋上にきていた。この日のために、少しだけいい望遠レンズも持参した。屋上からぼんやりと眺めつつ、良い表情が向けられそうなステージのほうにカメラを構えた。

 * * *

「はー高校生活最後の文化祭が終わる~…。」
「拓実がそういうこと言うの、珍しいね。」

 拓実と椋花は、校庭のあまり人のいないところに立っていた。遠巻きにステージは見えるが、二人とも参加をするタイプでも、出ている人に強い興味があるタイプでもない。

「あのさ、拓実。」
「んー?どうした?」

 言うならきっと、今しかない。この文化祭で少し浮かれた空気の中になら、うまく本音を溶かしてしまえる気がした。それに言いにくいことは、日常に戻ると余計に言いにくくなる。この非日常の勢いに任せて言ってしまったほうがいい。そう思って、椋花は口を開いた。

「…拓実は、もしかして…私が知春のことを好きだと思ってる?」
「へ?」

(この角度から質問が飛んでくるとは思わなかった。)

 完全に油断していた拓実はたじろいだが、おそらくここはいつものノリで軽く流すところではないということだけは確実にわかる。拓実は静かに頷いた。

「もし違ってたら俺の勘違いだわ。そん時は謝る。」
「…完全な勘違いじゃないけど、でも今は勘違いかも。」
「…ごめん、全然意味わかんねぇ。」

 頭を掻きながら椋花のほうを見ると、椋花はステージのほうを見つめていた。

「好きだった期間はね、確かにあったよ。だけどやっぱり、友達なんだ。知春は。その関係を崩してまで、恋愛の関係に変えたいって…思えない。」
「それは、知春が芸能人になったから?」
「それもなくはないけど。」
「名桜ちゃんが現れたから?」
「…うーん、まぁそれもなくはないかな。1個じゃないよ、理由なんて。」
「…ま、それもそうだよな。じゃあごめん、俺が先走ってっていうか余計な気を回して、椋花と知春で一緒に回ったほうがいいとか勝手に思っただけだわ。」
「ほんと、余計なお世話なんだから。」
「ごめんって。」

 ははっと軽く笑う拓実に合わせて、椋花も笑った。その笑顔に心なしかほっとする。