* * *
「お疲れさまでした。」
「ありがとうございました。写真のデータ、明日までにはお送りしますね。」
「助かります。ありがとうございます。」
ふぅと小さく息を吐いて、時計を見やるともう21時を過ぎていた。合間に知春に舞台の感想を送ろうと思っていたのに、いざ言葉にしようとすると全くまとまらず、仕事がすべて終わってから考えようと、頭の隅に追いやっていた。
「今日もお疲れ様。名桜にお客さん。」
「え?」
スタジオの奥のドアからひょっこりと現れたのは、紺色のキャップを目深にかぶって、黒パンツに白のロングTシャツという、ラフな格好の知春だった。
「仕事、お疲れ様。舞台、ちゃんと見れた?」
「もちろんです!感想はこれから送ろうと思ってて…。」
「せっかくなら直接聞きたくて、来ちゃった。麻倉さん、ちょっとだけここでお話させてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろん。ゆっくりどうぞ。」
そう言い残して、名桜の父は事務作業室へと引っ込んだ。人がいなくなった静かなスタジオに、小さな足音が残る。知春はゆっくりと名桜との距離を詰めた。
「初舞台だったわけだけど、どうだった?」
「…私、それはやっちゃだめだって言いませんでしたっけ?」
「『シンデレラを想う、魔法使い』ね。でも名桜と話しててそれも面白いなって思ってつい話したら、いつの間にか脚本に載ってたんだよね。」
ふわっと柔らかく笑う、等身大の伊月知春がそこにはいた。
「…とても良かったですよ。きっと魔法使いはずっとどこかでシンデレラを見守っていて、ようやく出番がきても、それは別の人へと進む道への後押しで。その想いや悩み、躊躇い、いろんな気持ちが知春さんの表情から読み取れて。さすがだなと思ったのももちろんですが、ちょっと胸が苦しくなる。…少なくとも私は。」
周りの大多数の女の子たちは、もしかしたらそうではなかったかもしれない。だが、名桜にはそう見えて仕方がなかった。
「…ありがとう。やっぱり最初の感想は名桜から聞きたかったんだ。」
「クラスの方たちもたくさんお話してくださったのでは?」
「まぁ、よかったよーとはみんな言ってくれるけど、それでお金を稼いでいる身としてはよくなかったらマズイわけでさ。たった3分程度のあの演技、何も考えなかったわけじゃないってわかってもらえて嬉しい。」
そう言って知春はまた、気の抜けた笑みをこぼした。
「お疲れさまでした。」
「ありがとうございました。写真のデータ、明日までにはお送りしますね。」
「助かります。ありがとうございます。」
ふぅと小さく息を吐いて、時計を見やるともう21時を過ぎていた。合間に知春に舞台の感想を送ろうと思っていたのに、いざ言葉にしようとすると全くまとまらず、仕事がすべて終わってから考えようと、頭の隅に追いやっていた。
「今日もお疲れ様。名桜にお客さん。」
「え?」
スタジオの奥のドアからひょっこりと現れたのは、紺色のキャップを目深にかぶって、黒パンツに白のロングTシャツという、ラフな格好の知春だった。
「仕事、お疲れ様。舞台、ちゃんと見れた?」
「もちろんです!感想はこれから送ろうと思ってて…。」
「せっかくなら直接聞きたくて、来ちゃった。麻倉さん、ちょっとだけここでお話させてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろん。ゆっくりどうぞ。」
そう言い残して、名桜の父は事務作業室へと引っ込んだ。人がいなくなった静かなスタジオに、小さな足音が残る。知春はゆっくりと名桜との距離を詰めた。
「初舞台だったわけだけど、どうだった?」
「…私、それはやっちゃだめだって言いませんでしたっけ?」
「『シンデレラを想う、魔法使い』ね。でも名桜と話しててそれも面白いなって思ってつい話したら、いつの間にか脚本に載ってたんだよね。」
ふわっと柔らかく笑う、等身大の伊月知春がそこにはいた。
「…とても良かったですよ。きっと魔法使いはずっとどこかでシンデレラを見守っていて、ようやく出番がきても、それは別の人へと進む道への後押しで。その想いや悩み、躊躇い、いろんな気持ちが知春さんの表情から読み取れて。さすがだなと思ったのももちろんですが、ちょっと胸が苦しくなる。…少なくとも私は。」
周りの大多数の女の子たちは、もしかしたらそうではなかったかもしれない。だが、名桜にはそう見えて仕方がなかった。
「…ありがとう。やっぱり最初の感想は名桜から聞きたかったんだ。」
「クラスの方たちもたくさんお話してくださったのでは?」
「まぁ、よかったよーとはみんな言ってくれるけど、それでお金を稼いでいる身としてはよくなかったらマズイわけでさ。たった3分程度のあの演技、何も考えなかったわけじゃないってわかってもらえて嬉しい。」
そう言って知春はまた、気の抜けた笑みをこぼした。



