* * *

「とりあえず1回目、お疲れさまでしたー!」

 体育館から客が全員いなくなったのを見計らって、総指揮をとっていたクラスメイトが大声で叫ぶとどこからともなく拍手が湧いた。

「いや~知春の変えた脚本の効果えぐかったな。」
「舞台の盛り上がりは拓実に負けるよ。」
「はいはい、二人ともモテてましたよ。」

 椋花が冷えたペットボトルを二人に渡す。

「舞台って始まっちゃうとあっという間だね。それに俺、次の回しか出られないし。」
「明日は一般開放だしな。やべーことになんだろ。」
「まぁそもそも仕事だから明日。」
「だからまぁ、悔いなくやるしかねーよな。不本意だけど、俺が王子ってことは。」
「似合ってるよ、拓実。自信もって。会場もきゃーきゃーしてたし。」
「はいはい。それ別に全然嬉しくねーけどな。でもまぁ…。」

 拓実が知春のほうをまっすぐ見た。

「なに?」
「最後の文化祭だから。」
「…そうだね。」
「だから不本意だけどやってやんよ。知春と同じ舞台に立つっつーのも、たぶん二度とねーしな。」
「そうかな?」
「拓実が知春の世界に飛び込めばいいだけの話じゃないの?」
「簡単に言うなよ。つーか別に俺は演劇に興味があるわけじゃねーから。」
「そうなんだ。一緒に働けたらよかったのにな。」
「素質、なくないと思うけど。」
「素質で言ったら椋花だろ。」
「…私は演技に関与してないけど。」

 椋花は訝しげな目で拓実を見る。

「演技じゃなくてヘアメイク。やってる間も楽しそうだったし、実際見栄えもいいし、崩れねーし。いい線いってんじゃねーの?」
「それは本当にそう。椋花がプロのヘアメイクさんになってくれたら一緒に働けるね。」
「…なるほど。まぁ、知春のメイクってなると本当に狭き門な気がするけどね。とりあえず二人とも少し直すからこっち来て。」
「はーい。」
「はいはい。」