リナリア

「文化祭の自由時間、どうするの?」
「…目下悩み中です。」
「3人で一緒に回るのがいつもの感じ?」
「名桜の仕事がない時間は、そんな感じです。でも、私が別の子と回れば、必然的に2人にできるっちゃできるんですよ。」
「それは、逆に不審がられないの?」
「ん-…二人ともっていうか、主に名桜が鈍感だから何も思わないに一票です。」

 困ったような笑顔を浮かべる七海を前に、椋花も鈍そうな彼女を思い浮かべる。確かに鋭そうな子であるようには見えないし、実際友人からこの言われ様であることからも、決して鋭いわけではないのだろう。

「…私も考えなくちゃなぁ。」
「椋花先輩も、ですか?」

 話してしまおうか、とそんな気になった。思った時には、言葉が口からすべり落ちた。

「拓実に、知春と一緒に回れる最後の文化祭だって言われちゃった。」
「えっ…。」
「そんなの、拓実も同じなのにね。」
「確かに!つまり拓実先輩は、椋花先輩と伊月知春に一緒に回ってほしい、と。」
「…私にそんな気はもうないのにね。」

 知春のことを好きだった期間があるし、今もちゃんと好きだとは思っている。しかし、どんどん売れていく知春を見ていて、やはり想いは不毛だとも感じている。
 最初こそ、仲が良く見えた名桜に対して嫉妬に近い感情を抱いてもいたが、さっきの仕事ぶりを見て、ますます自分との差を感じてしまった。自分はあんな風にはなれない、と。

「知春はこれからどんどん、いろんな人に好かれて、求められていく。その知春の隣に立つには、私が弱すぎる。」
「…蒼も、名桜にそんなこと思ってるのかなぁ…。」
「近いもの、あるかもしれないね。知春と土俵は違えど、彼女もその界隈では有名人でしょ?」