リナリア

「背中を押したい。幸せになってもらいたいから。…こんな風に思えたら、きっとよかった。」
「え?」

 七海が無理矢理笑顔を浮かべているように、椋花には見えてしまう。

「相手の幸せを願って、私は大丈夫だよなんて言えるほど、人間出来てないですよね。」
「…そうだね。そんな風には私だって思えないよ。」

 相手の幸せを願っているけれど、相手の幸せだけを願っているわけではもちろんない。

「名桜のことが好きなんですよ、あいつ。それなのに告白もしないで見守るだけ。そんなことしてたら、名桜の前には人気俳優伊月知春。二人の関係はもちろん今は恋愛じゃないけど、今、名桜に近い男って多分、伊月知春だと思うんです。」
「…そうだね。」

 優しい眼差しで名桜を見つめて話しかける知春を何度も見ている。二人の感覚としては対等に仕事をしているだけかもしれないが、周りからするとそれだけには見えない。

「名桜が振り向いてくれたら、あいつは幸せになれるのに、名桜には振ってほしいなーとか思っちゃう自分にめちゃくちゃげんなりします。あー最低って。」
「七海ちゃん、でいいかな?」
「あ、はい、もちろん。」
「七海ちゃんはあの一緒にいた男の子が好きなんだね。」
「そういうことになります。」
「認め方が独特で面白い。」
「他人に言ったの初めてなんで、ちょっと変な感じですけど。」
「それは誰にも言えないね。…だから、さっきの質問ね。絶対叶わない恋の終わらせ方。」

 七海は真面目な顔で頷いた。

「勇気があれば、告白して振られたらすっきりできるのかなとか、思わないこともないけど。でも、壊したくないんだよね。…なんていうか、恋人になれたら、それはそれで嬉しいのかもしれないけれど、でも今の立ち位置を失くしてまで欲しい肩書なのかなって。」
「…そう、なんですよね。私が黙ってれば、多分今のままでいられるから。…もどかしいけど。」

『もどかしい』ほど、気持ちが動く七海のことが眩しく見える。