「依亜!」


「…史音?」


そんな走ってきて…何か言い忘れ?


「…髪、気をつけろよ」


「…それ言うために戻ってきたの?この姿で過ごす方が長いんだから大丈夫よ。そんなにドジでもないんだから」


御曹司やお嬢様も受験するこの大学に、夕凪一族がいると、シルバープリンセスがいるとバレたら大騒ぎになる。


そういう理由で私は〝榎本依亜〟として受験することになったのだ。


大学にも家にも迷惑をかけたくなかったしね。


「まぁな。…依亜」


「なに?まだ何か…」


近づいてくる史音。


史音の顔を見ようと横を見た瞬間、頬に感じる熱く柔らかい感触。


そして耳に聞こえてた〝ちゅっ〟という音。


それだけで顔が真っ赤になる。


「し、しおっ?!」


ここ外なんですがっ?!


何考えてるの?!!


「ん、虫除け。じゃあな」


「ちょっ!…っもう!」


〝虫除け〟…か。


そっと頬を触る。


まだ感触が残ってる…。


…っよし!頑張ってこよう!!