「佐竹さんは何がお嫌なのですか?」

河村は平然と問うた。

彼女は図太い神経の持ち主だ。

いや、デリカシーの持ち合わせがないタイプだ。

と俺のリストに付け加えておくことにした。

「約束が違う。パリへは行かない。」

「あら、困りましたね。」

カラッと言う当たりがシャクにさわった。

「河村、おまえは行きたいのか?」

俺は彼女のブラウンがかったグリーンの瞳を見つめた。

「はい。行きたいです。もう1年私を仕込んでもらえませんか?」

「親父さんの会社を継ぐのか?」

「はい。」

彼女は迷わず即答した。

俺は彼女の目を見つめ観念した。

「わかった。あと1年だけだ。1年後には必ず東京に戻る。いいな。」

「ありがとうございます。」

俺は最初からわかっていたつもりでも

局長に振り回されることが運命だと

その運命には逆らえない自分を恨めしく思う反面

河村を育て上げるという

局長との約束のようなものを完了させなければ

俺には自由な未来がやってこないような気がしてならなかった。