ノベルに気をとられたふりをして、最初の動揺をやりすごした。

いつか訊かれると思ってた。

林太郎は、母がまだアルコール浸しになる前に引っ越してしまったので、その後の転落を知らない。

あんな不安定な母を、知らない。



「私が小学校の、中学年になったくらいからかなあ」

「…ほやったんか」

「最初はね、酔っぱらってる時間が増えたなってくらいだったんだけど、だんだん、戻ってこらんなくなっちゃったみたいで」

「なんか、きっかけがあったん?」



首を振った。

本人にはあったんだとしても、私は知らない。

徐々に、気づいたらああなってたとしか言えない。



「ノベルも、ずいぶん美化してくれてるよね」



ていうより、元の投稿がか、と自嘲すると、林太郎は朗らかに笑って首を振る。



「おばさんは、今でも綺麗やって、僕、あのドライバーの気持ち、わかるわ」

「えー、ほんと?」

「うん、あれっ、て目惹く感じや。危なっかしいような、何あっても平気なような、ほんな不思議な感じ」



アイスコーヒーのグラスを口に持っていきかけて、林太郎はちょっと言葉を切った。



「あっちゃんも、似た感じ、あるよ」



照れくさそうに微笑むと、グラスから氷の音がする。

間が持たなくて、私もなんとなく自分のぶんを飲んだ。


そういえば私、昨日のことを、まだ謝ってない。



──なんでやの、あっちゃん。



あの件は、このままうやむやになってくんだろうか。

でもたぶんそれが、一番いい。



「おばさん、どこへ行こうとしてたんやろね」

「さあ…忘れちゃうくらいだから、ふっと思い立っただけだったのかも」

「思い出したら、つれてってあげんとやな」