今、ひとりになるのは嫌だ。

無益に最悪の事態ばかり想像して、最後にはそんな自分に嫌気がさすに決まってる。

じっと返事を待つ私を見ながら、林太郎は少しの間、顔に戸惑いを浮かべて。

やがて優しく、私を安心させるようにうなずいた。



「わかった」





真面目な林太郎は、一度家に帰った。

高校生の男子が、向かいの家に外泊するのに、いちいちお手伝いさんに伝言なんてするなよ、とあきれもするけど。

その律儀さと気遣いが、らしいといえばらしい。


リビングで林太郎を待った。

時計を見ると、ちょうど日付が変わったところだった。

なんとなく携帯をとり出して、サンクスノベルズをチェックしようと、ブラウザを起動させる。

更新があったことを示す数字に、こんな時ですら気分が高まった。


偶然にも、最後のカキコがついさっき行われたところなのが、タイムスタンプからわかった。

“管理人”と何かを共有できたような気分で、最新のカキコを開き。

読み進めるうちに、私は自分の目が信じられなくなった。



「ごめん、遅なって」



林太郎がリビングに駆けこんできた時も、携帯から目を離すことができずにいた。

あっちゃん? とそばに寄ってくる気配がする。



「お腹減ってるやろ、大町さんが、持たせてくれたで」

「ねえ、これ、お母さんじゃないかな」

「え?」



風呂敷包みをローテーブルに置いた林太郎が、携帯をのぞきこんだ。

時間をかけてそれを眺めてから、慎重な声で言う。



「…おばさん、こういう服、持ってるんか」

「持ってる、花柄の水色のマキシワンピ、最近気に入って、よく着てるの」



林太郎は賢くも、サンクスノベルズ自体について、何も訊かなかった。

これはなんだとか、誰が書いてるんだとか、今はそういうことを話す時じゃないって、私の雰囲気から感じとったんだろう。