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気づけば朝だった。
私も拓未も、ケーキを食べてそのまま寝てしまったらしい。
ソファに寄りかかり変な体勢で寝たので、腰が痛い。
でも、まだ出社時間には余裕があった。
長いあくびと大きな伸び。
私はゆっくり立ち上がり、カーテンを開ける。
眩しい柔らかな光が、私をつつんでいる。
振り返ると、拓未が床で寝ていることが分かった。
ソファのクッションを枕にすればいいのにしっかりと抱いている姿は、なんだか可愛い。
私はもう一度机の前に座り、拓未のほっぺたをつねった。
柔らかい手の感覚がなんだか懐かしい。
昔もよく拓未のほっぺたをぷにぷにして、怒られていた。
なんとなく、笑みがこぼれる。
ふと、彼がつぶやいた誰かの名前を思い出す。
あやかさん、だったと思う。
拓未はどこから来たんだろう?
なんで兵庫から東京へ出てきたこと、教えてくれなかったんだろう?
聞きたいことは山ほどある。
いろいろなことを考えながら、拓未のさらさらの髪の毛を触る。
大好きだった、猫みたいな髪の毛。
そのときいきなり拓未が私の腕を掴んだ。
「ふぇ?!」
ついびっくりして変な声を出してしまう。
その声に、拓未は笑い転げている。
「もう… 起きてたなら言ってよ」
「ごめんごめん…でも…ふぇって…」
笑って声になってない。
するといきなり彼は真剣な顔になり、起き上がって私の前に座り直した。
「咲耶はさぁ… なんで俺に何にも聞かないの?」
「え?」
意外な質問に、固まってしまう。
拓未はこちらを見つめて、私の返答を待っている。
「…じゃあ
1個だけ」
彼は微笑んで私の質問を待っている。
「拓未は…」
『拓未はなんで連絡してくれなかったの?』
…本当は、こう聞きたかった。
私が東京の大学に行くことになり兵庫を離れてから、私がいくら電話をしても、メールをしても、手紙を書いても、返事が来ることは無かった。
兵庫に帰った時拓未の家に行ったりもしたけど、拓未は家を引っ越していて、私にはどうすることもできなかった。
でもずっと待っていた。
あの日拓未がはにかんでいった、
むかえにいく、という言葉を信じて。
「咲耶、ためすぎ。」
彼がクシャっと笑う。
「ごめんごめん」
「拓未は、帰るとこあるの?」
私が質問すると、拓未は笑って言った。
「ないよ」
「…え?」
「だからないって」