振り返ると高島は靴を脱いで上がった。

スタスタと私の横をすり抜け、キッチンへと入っていく。

その後ろを追いかけるようについて行き、キッチンへと足を伸ばした。




部屋の中では、お味噌汁の香りが漂っていた。


「あれ?もしかして、作ってくれたの?」


目線を高島に向ける。


「まあな」


ガスレンジの上に置いてある鍋の蓋を開けてみた。



「わぁ…具沢山で美味しそう!」


母の作るお味噌汁のようだ。


「具入れ過ぎかな」


恐縮そうに呟く。


「ううん。そんなことないです!これだけ具が入ってると、旨味も増すから余計美味しい筈です!」


クンクン…と、鼻をひくつかさせてしまった。


「食べるのが楽しみ!私、誰かに朝ご飯を用意してもらうのなんて……」


「50日以上ぶり。…だろ?」


「え!?……ええ、そう……」



ニヤッと笑う高島の顔を凝視してしまった。

母を亡くしてからずっと、自分が1人だった…と実感させられた。



「顔洗って来いよ。飯の支度はしといてやる」


食器棚から茶碗や汁椀を出し始める。

その背中を見つめ直し、何だか目頭が熱くなった。



「…すみません……お願いします………」


変な感じ。

客人がまるで家族のようだ。


高島は私の言葉に返事もせずにいた。

黙ってその背中を見つめながら父がもしも生きていたら、こんな朝を迎えることもあったかもしれない…と考えた。