納骨堂に参った日の夕飯はシチューにした。

少しだけ多めに作り、明日の夕飯はそれをグラタンにリメイクして食べようと考えた。


グツグツ…と煮込む鍋の前に椅子を持ってきて座り、明日からの予定を見直す。


最初はレンタカーを借りて遠出をしようかと思っていた。

でも、何処もかしこも人が多く、人混みの苦手な私が一人だけで出掛けるのは難しい。

近場でショッピングするのが妥当だろうと思い直し、情報誌を捲ってはいるが………



「はぁ……」


さっきから溜息ばかりが出る。

昼間に再会した男のことが妙に浮かんできて仕方ない。



(あの人…まだ暫くお寺に住むのかしら……)


自分には関係のないことだと思おうとすればする程気にかかる。

会うのは怖いくせに、無性に会いたくなるのだから厄介だ。


(ああ、もう。好きになっても無駄なんだってば。恋なんてしても卒倒するだけだから…!)



長年胸の奥に仕舞い続けてきた恐怖体験を話すことはできた。

お寺の本堂で高島と2人きりだったからできた様な感じ。


……あの環境でなければ話せなかったと思う。

情に満ち溢れた本尊が見守っているからこそ、何もかも包み隠さず話せた。




「はぁ……」


またしても息を吐く。

開いていた情報誌も放り出し、気分直しに外へ出た。



庭では藤の花が五分咲きを迎えていた。

咲き始めはゆっくりだけれど、咲き揃ったらあっという間に散っていく。