その時だった。


あたしはキャバクラから出て来た1人の男に目をつけた。


まだ若くて、背が高い。


顔はイマイチだけれど、スタイルは悪くない。


思わずジッと見ていると、男の方からあたしに話しかけて来た。


「なにか用事?」


低くて、何人もの女を垂らしこんできたような甘い声だ。


あたしは自分の鼓膜がくすぐったくなるのを感じた。


「カッコいい人だなと思って」


躊躇せずにそう言うと、男は楽しそうに笑った。


「そんな直球で言われたのは初めてだよ。君、名前は?」


男は品定めするようにあたしを見て、そして聞いて来た。


「彩花」


「あやか? 可愛い名前だね。俺はケンイチ」


その名前が似合いすぎて思わず笑いそうになるのを、グッと押し込めた。


「ねぇ、よかったら連絡先を教えてくれない?」


あたしはバッグから自分のスマホを取り出してそう言った。


「いいよ。今日これからは?」


「あなた今キャバクラから出て来た所なんだから、お金ないでしょ?」


あたしがそう言うと、ケンイチは軽く肩をすくめた。


図星だったようだ。


「じゃぁ、また今度連絡する」


ケンイチはそう言うと、下手なウインクをして夜の街にとけていったのだった。