「見て」


お母さんはそう言うと、エプロンのポケットからチケットを取り出した。


それには確かにヨーロッパ旅行ペアチケットと書かれている。


「本当だ……。お母さん、あたしを驚かせるためにチケットを自分で買って来たわけじゃないよね?」


「そんな事するわけないでしょ。そんなお金だってないわよ」


お母さんはそう言うと、ため息を吐き出した。


それもそうだよね。


あたしの家は海外旅行なんて1度も行った事がない。


「お母さん、旅行に行くの?」


「もちろんよ。これを逃したらもう死ぬまでヨーロッパなんて行けれないかもしれないじゃない」


それはちょっと大げさな気もするけれど、旅行に行く気満々だということはわかった。


「でもそれってペアだよね? お母さんとお父さんが2人で行くってこと?」


「だって、彩花は学校があるでしょ」


「それはそうだけど……」


ヨーロッパ旅行なんてすごいもの、あたしだって行ってみたい。


「どっちにしても彩花は無理よ? この旅行一か月滞在するんだから」


チケットに視線を落としてお母さんはそう言ったのだ。


「一か月!?」


「そうよ。ツアーで一か月間ヨーロッパを堪能できるチケットだったのよ。一か月も学校を休んだら進級できなくなるでしょ」