つい20分ほど前、彼女の名前で【すみれが大変。 by尾形】という短いメッセージが来たときは、身体中の血の気が引いたようだった。

以前から、今日は友人の広香と尾形の3人で飲むんだと聞かされていたけど。あわてて電話をかけてみれば、本人ではなくなぜか尾形が出て「すみれが酔い潰れて爆睡してる」とか言うし。さらに、広香はとっくに帰って今はふたりきりだとか言いやがるし。

こんな連絡をもらっといて、誰がのほほんと家でくつろいでいられるか。俺はすぐに車を走らせ、彼女たちのいきつけ【むつみ屋】へとやって来たのだ。


相変わらずすよすよと気持ち良さげに寝息をたてているすみれ。そっと髪を払って確認した頬は赤く色づいており、かなりの量のアルコールを摂取したのだと容易に想像できた。

ムッと、顔が不機嫌に歪むのを止められない。



「なんだって、今日はこんなになるまで飲んだんだ……ていうか止めろよな、広香も尾形も」



言葉の途中から、ジロリと尾形を睨む。ヤツはまったく意に介した様子も見せず、グラスに残っていた琥珀色の液体をのどに流し込んだ。



「あー。飲ませて潰したのは俺だからな、主に」

「あ゛ぁ??!」

「ちょっとふたりともー、ケンカなら表でやってね」



ついガラの悪い大きな声を出してしまうと、それまで傍観していたここの大将である青司さんに咎められた。

いや、つーか『ケンカやめろ』じゃなくて『表でやれ』って言うあたり、この人も変わってるよな。

そうは思いつつ騒がしくしてしまったことは自覚しているので、さっきよりもおさえた声で尾形に話しかける。



「おまえが飲ませたって、なんだよそれ」

「だって、激しくムカついたから。こんくらいの仕返しは許されると思う」

「はああ?」