蓮の部屋の前まで来てしまった。

ドアをノックしようと腕を上げた。けど、ドアをたたくことはできず、固まる。
どうしよう。

手に持ったガトーショコラに目を落とす。

チョコレートの茶色よりも暗い色のガトーショコラ。なかなか中まで火が通らなくて、何回もオーブンで焼いた結果、焦げてしまった。

手作りのお菓子なんて作るんじゃなった。市販のチョコレートにしておけばこんなことにはならなかったのに。私は市販のチョコレートを買うつもりだったのに。

はぁと息をついた。



バレンタインデー前日のこと。

花音が雑誌のバレンタイン特集の記事を読んでいた。



「明日はバレンタインだね。山本くんにチョコあげるの? 」



花音の言葉に溜息をつく。

それが一番の悩みの種だった。



「あげようと思ってるんだけど、手作りじゃないとダメかな」

「えー、なんで? 」