微かに機械の音がして、エレベーターが動き出していた。
考える間もなく、すぐに27階で止まった。
何てことするの?
ようやく自分を取り戻して、伊村さんをにらみつけた。
結構怖い顔したのに、笑顔で返された。
「エレベーターを下りたら、まっすぐ非常階段へ向かってね」
満足そうに、すっきりした面持ちで言う。
「わかってます!」
進みかけたら、また、腕を引っ張られて引き戻される。
「ちょっと待て、分かってないだろう。君は、仕方ないな」
つかんだ二の腕の辺りを、フニフニつかみながら笑ってる。
いきなり腕を引っ張っておいて、なに言ってるのよ。
「自分が歩いたところくらい、分かってます」
まあ、どこを歩くかなんて考えてるわけないけど。
「もっと壁寄りに歩けよ。防犯カメラに写らないだろう?」
せっかく腕からすり抜けたのに、また彼の腕に捕まった。
「ちょっと、本当に、何するのよ!離してよ!」
「だから、そっちじゃないって言ってるじゃないか?」
「言われなきゃわかんないわよ、もう」
離してと、手足をバタつかせる。
「おい、暴れるなって。今、ちゃんと立たせてやるから」
「止めて、自分で立てます!」
「いちいち、うるさいやつだなあ。それとも、さっきみたいにもう一度、優しくされた方が好きか?」
「変態!」
「こんなところで、何してるんですか?」
林田さんがにこにこ笑って、エレベーターから降りて来た。


