伊村って男は、私がにらみつけたのに、全然ひるまずに顔を近づけて来た。
すっと、私の胸の辺りに手を伸ばして来た。
「ひっ!」
胸に触られると思って身を引く。
何するんですか!って叫ぼうと思っても、声が出ない。
あまりにも怖くて。
声を出しても気にせず、伸ばした手を引っ込めない。
本当に触られる。
そう思って、飛びのくみたいに後ろに下がった。
彼の手は、私の胸じゃなくて、私の首にかかった社員証をひったくった。
私の社員証を手にして、それをじっと見つめている。
「篠崎彩弓って、これ本名か?」
「あ、あたり前じゃないですか」
私は、奪われた社員証を取り返そうと、手を伸ばした。
彼は、ひょいっと社員証を上げた。
そうして、弄ぶように、私の手の届かないところに持ち上げる。
「もう、帰してください。お昼休みとっくに過ぎてるんです」
「帰りたいだと?何考えてる」
伊村って男がまた、顔を近づけて来た。
こんなに威嚇しようとして怖い顔していなければ、整ったいい顔なのに。
「お前、誰だ?本当に篠崎彩弓って名前か?」


