「一応、メディカルチェックして、医者の許可取って連れて来たからな」
上から目線で冷ややかに言う。
相手が病人だろうと関係ないみたいだ。
相手をいたわろうという気持ちを、お母さんのお腹の中で忘れて来たのだ。
この人は、天国の住人というより閻魔様とか、悪魔の方が似合う。
「連れて来たって、どういうこと?」
「なんだ。覚えてないのか?」
がっかりしたのか、苦労して世話してやったのに、恩を忘れてるのか?
っていう表情だった。
「覚えてないだと?」
「誰が、ここまで運んでやったと思ってるんだ。そんなことは、もういい。何か食べられるか?」
私は、微妙な表情をする。
胃の中に何か入れられるか?と聞かれればYESと答えるけど。
伊村さんの料理が食べられるか?と聞かれれば、見てから考えたい。
「早く来いよ」そう言い残して、彼は部屋から出て行った。
彼に続いて扉を開けると、リビングになっていた。
コポコポと音のする。
そっちの方をみると、そこがキッチンになっていて、中に伊村さんがいるのが見えた。
「どうして伊村さんが、ここに?」
やっぱり、信じられなくてもう一度聞く。
どこだここは?
他に人がいる気配は、ないではないか。
「どうしてって言われても、ここは俺の家だからな」
「伊村さんのお家なんですか?ここが」
案外普通の家に住んでるんだなあ。
もっと、すごい部屋を想像したんだけど。
ジャングルみたいな密林の中とか、大きな倉庫の中とか。
私は、きょろきょろと部屋を眺める。
何て普通なの?
私の部屋よりは、ずいぶん立派だけど。
へえええ。普通の人間の部屋だ。
「なんだ、その嬉しそうな顔」
彼がこっちを見て言う。
「いえ。ちょっと敵のアジトにたどりついたみたいで嬉しいです」
ダメだ。顔がにやけてしまう。
「なんだ、それ」
白っぽい明るめのフローリングの床に、白い壁。
リビングのソファのセット、サイドボードにテレビ。
ちゃんと部屋のイメージを考えて、選ばれたインテリア。
これは、伊村さんの趣味だろうか?
あり得ない。
何でこんな。
普通の人が好むオシャレな、部屋にしたんだろう。
やっぱり謎だ。
「ここは、寝るだけだからな」
彼が、私の反応を見透かしたように見て言う。
「部屋の様子を見て、ニヤニヤされたのは初めてだ」
パソコンは、何台か置かれている。
すっかり机を占領していて、そこが普通の男性と違うかなっていうくらい。
彼も時々モニターをのぞくように見ている。
ILDKで広めのリビング、仕切られた部屋は寝室に使っていた。
「私だって、招かれた部屋を見てニヤニヤしたのは初めてですよ」
負けずに言い返す。


