今頃シンガポールか。
林田さんが言ってたことを思い出した。
『伊村さんですか?彼は、技術者として優秀な人ですから、私たちも、彼がどうやって暮らしているのか全然知らないんですよ。
何しろ連絡を取るのも、電話番号は公表しないし、メールだけですから。
後は、どうしてもコンタクト取りたい時は、業界の中でどこでどんな仕事をしているのか、噂を聞いて、直接会いに行くんですけど。何せ、気難しい方なので、対応がまずくて機嫌を損ねてしまったら、もう二度と会ってはくれませんからね』
林田さんは、伊村さんのことをそんなふうに言っていた。
彼のことなんか、何一つ知らないんだ。
どこに住んでるのか。
どんな生活を送って来たのか。
会いたいな……
なんて思っても、どこに行けば会えるのか、誰に聞けば会えるのか。
全然わからない。
星空に向かって、月に行きたいって言ってるのと同じだ。
それでも諦めきれずに、27階のBCエレクトリックに行ってみた。
受付で、伊村という社員は当社にはおりませんと言われただけだった。


