「そんなこと決めてるのかよ。どうして?」
彼は、店に向かう大理石の上で立ち止まる。
「決めてるわけじゃありませんけど、人生ってそういうもんじゃありませんか?」
誰だって、こんなふうにいい思いばかりできるわけじゃない。
「そういうものって?」
きょとんとする伊村さん。
「伊村さんは、考えたことありませんか?小学生の頃には何となく感じてる。自分ってこんなもんじゃないのかなっていう諦めみたいなもの」
伊村さんが同情的な目で見る。
「君って、そんな早くからいろんなこと諦めてるの?」
私はため息交じりに言う。
ニタニタ笑ってる彼。
ちょっと、ここは笑うところじゃないってば。
「痛っ」
執事さんに見えないように、彼の脇腹を突っつく。
「あのね、学校を卒業して、世の中に出ても、目に見えない壁ってあるもの。例えば、このビルだってそう。26階から線が引いてあって、そっから上と下は混じり合うことがないもの」
平民と貴族みたいな。
「混じり合うことがないだって?なんだ、それ」
彼は、本気でなんだ、それって顔している。
「だって、私たちだってそうよ。普通はすれ違ったまま。どこにも接点なんてないはず。だから、本当ならこうやって、お互い出会うことってないでしょう?」
「そうかな?世の中に絶対なんてあり得ない。現にこうして、俺は君とエレベーターに乗ってやって来たんだから」
ほら、と言いながらさっと腕を出してくる。
こうしてると、仲のいいカップルみたいに見えるかな。


