私は、エレベーターで恋に落ちる

完璧に磨き上げられた黒い大理石のような床に、不用意に足を踏み入れる。

思い切って、足を床につけられない。

ボロ靴で、床に足跡が付きそう。
それに、なんという光沢。

つるっと滑るんではないかと、錯覚してしまったのだ。

スケートのリンクに恐る恐る下り立つように、床の感覚を確かめる。

「何してるの?」
伊村さんが、意味が分からず支えようか?と視線で合図してくる。

「大丈夫です」
滑るかと思った。
なんて、恥ずかしくて言えない。

足元に視線を落とすと、くたびれた黒いパンプスが床に馴染まずに浮き上がって見える。
こっちも悲惨だ。

靴も、新しいものを履いてくればよかったな。

気を取り直して。
高級店に向かおう。


53階にあるフレンチレストラン
「レザン」は高級というだけじゃなく、レストランとしての格が高い。

と、偉そうに私に説明して、プレッシャーをかける伊村さん。