私は、ハンカチを取り出して、目の周に軽く当てた。
目元がどうにかなってないか、確かめてから顔をあげた。
伊村さんが急に立ち上がって時計を見る。
「腹、へってないか?」
私を待っていたのは、まったく色気のない質問だった。
「こんなときに減るわけないじゃないですか」
私は、大声で笑い出した。
「俺は、もう餓死するほど、飢えてるんだけど」
彼は、すでに歩き出して私の手を引こうとしている。
「そんなに減ってるなら、一人で食べて下さい」
私は、彼に手を引かれて前のめりになりながら歩く。
「いいのか?美味しい料理、目の前にしたら、絶対、腹が減るって。掛けたっていい」
彼の足が小走りになる。
「言っとくけど、私は、そんなに単純じゃないから」
私は、彼を追い抜こうと速足になる。
「おお、いいじゃないか。そのやせ我慢が、いつまで続くか見てやるよ」
一応、元気づけようとしてくれてるんだ。
やっぱり優しいのかな。


