才賀の場合――
「おい、晩飯できたぞ」
「……」
「おいって、早くこっち来いよ」
「……」
「こら、東条」
痺れを切らせた才賀が、テラスにいる私の元にやってくる。
夕方の空が、才賀の体を赤く染め上げていた。
「なによ」
「飯出来たって言ってんだろ」
「まだ夕方よ」
「今日は課題がたんまりあるから早くやりてんだっての」
「今日……」
「あ?」
「今日、ひかりちゃんと何話してたの?」
「繭済と? あぁ、別に。世間話だ」
「世間話?」
の割には、ちょっと楽しそうだったじゃない。
「無理しなくていいから、暇がある時に部活覗いてくれって言われた。それだけだ」
「……たまには行ってあげたら?」
「なんでだよ」
「だって、ひかりちゃん、あなたが来るのを待っているみたいだもの」
「……」
珍しく他人優先している私を不審に思ったのか、才賀は「ふん」と鼻で笑って、私の頭をポンと叩いた。
「いた!」
だけど、叩いた手をそのまま私の頭に置いて、少しだけ撫でてくれる。
お、なになになにっ。
私、今才賀に撫でられてる!
「さ、才賀?」
「心配しなくてもな、俺はお前の世話で忙しいんだ。のんびり絵なんて描いてる暇なんてねーっての」
「せ、世話って……そんなペットみたいに」
「そうだろうがよ。どうせ今日のパソコンの課題、手伝ってって言うんだろ?」
「さ、さすが才賀ね! 先生の言ってることが全く分からなかったの」
「はぁ……」
そして、撫で飽きたというように、才賀は私の頭から手を離す。
「分かったら早く来い。お前が一緒じゃねーと食えねーだろうが」
「う、うんっ!」
やっぱり、この距離がいい。
才賀が誰かと話しているのを遠くで見ているだけじゃやだ。
私の前でいただきますと言って、隣でパソコンを教えてくれる、この距離が良い。
「ねえ、才賀?」
「なんだよ」
「今日の晩御飯も楽しみね!」
「……そうだな」
言いながら、少し笑った才賀が夕日に映える。
その姿を、私は隣で見ていた。
《完》



