ーーー土曜日

職員室。

コンコンコン

「失礼します。富岡先生いらっしゃいますか?」

「おー、長谷川来たか。こっちこっち!!」

職員室の奥から叫ぶなよ。

「すいません、遅れました。」

富岡先生の前には、少し白髪混じりの男性が座っていた。

……あれ?どっかで見たことあるような。

「この方が七瀬の絵を見たいっていう羽柴慎也さんだ。」

「はじめまして、俺は長谷川 陽です。」

「あぁ、どうも。すまない、いきなりこんなこと言って。」

「いえ。あ、これが夕の絵です。」

夕のスケッチブックが6冊ほど入った袋を手渡した。

「……やっぱり素直な絵だな。」

そう言って羽柴さんは、ずっと夕のスケッチブックをめくり続ける。

「あの、どこかで夕の絵を見たことがあるんですか? 」

「ん?あぁ。全国絵画コンクールの審査してた頃見つけたんだ。」

全国絵画コンクール……。

「あ!授賞式のあと夕に話しかけてた方ですか?」

「あぁ。

……あれからも何年間かは、審査員やってたんだけど、彼女の絵以来、他の絵がつまらなく思えてしまったからもう、審査しなくなったんだ。

ある意味彼女は、俺の人生を変えたんだ。」

「……夕は、いつも言ってたんです。

『私は画家になりたい訳じゃないんだよ。ただたった一人でいいから、自分の絵で誰かの心の支えになりたい、心を動かしてみたい。……運命を変えてみたい。』
それが夕の夢でした。

……夕の夢は、叶ってたんだ。」




なぁ、この事知ってたら夕は、もっと永く生きられた?



……俺、最近おかしいんだ。

夕の死を受け入れたはずなのに、夕に逢いたくて仕方がない。



夕がいない日々が……怖いんだ。

もしかしたら、七瀬 夕なんて最初から存在しなかったんじゃないかって思ってしまうんだ。


……でも、今夕の夢が叶ったって知って、少し安心したよ。

羽柴さんも夕が生きていたという証人なんだ。