今回は、あのときとは違う。 少しだけ余裕がある。 明日はともかく、木曜には藤原さんと会える。 仕事がキャンセルになっても、できることなら、お見舞いに行きたい。 「おにいちゃん」 呼び掛けられて、ぼくはハッとした。 妹の麗【うらら】がこわばった顔をして、ソファに沈んだぼくを見下ろしている。 風呂上がりの濡れた髪のまま、手にはドライヤーがあった。 ぼくは、急いで笑顔をつくった。 「ああ、ごめん、電話終わったよ。ドライヤー、使ってどうぞ」