朝綺はもともと、大げさなくらいに表情も身振り手振りも豊かだった。


それが次第に、肩をすくめられなくなって、腕を広げられなくなって、


肘で上腕を支えて手を振ることさえできなくなった。


表情も、いくらか緩慢になった気がする。


軽やかな口調だけは、幸い、まだ変化がない。



 月曜の午後、結局、麗も朝綺のマンションへの訪問について来た。


ぼくと入れ替わりで帰っていく先輩ヘルパーの女性も、すっかり麗の顔を覚えている。


麗はいつも彼女と目を合わせずに挨拶をして、朝綺が掛けた椅子のそばに、膝を抱えて座り込む。


そしてトートバッグから問題集とボールペンを出して、黙々と勉強を始める。