「うん、ヘルパーさんも奥さんも、みんな気を付けてたはずだよ。藤原さん自身もね。


それでも、長い時間をかけて、気管のほうに食べ物の欠片が蓄積しちゃってたんじゃないかな?


気管切開をして人工呼吸器を付ければ、一応は、回復も可能らしい。だけど、あの藤原さんのことだから、ね」



 所長は語尾を濁した。


ああ覚悟しなきゃいけないんだな、と、ぼくはスマホとは反対側を向いて息の塊を吐き出した。



 用件のみの短い通話を終える。


疲れに似た重たいものが、ぼくの両肩にのしかかった。



 藤原さんは四十九歳で、ぼくより二回りも上だけれど、とても話しやすい人だ。


頭が切れて、ユーモアがあって、博識で、素敵な本も音楽もたくさん知っている。


藤原さん宅へ訪問する月曜と木曜は、朝が極端に早いことを除けば、楽しみですらあった。