薄暗く、湿った闇の中。
古く、目の粗くなった畳に正座したまま、老人が目を閉じている。
と。
「頭領」
黒い喪服、日本人形のような髪型の若い女性が老人の背後に音もなく現れる。
「確認しました。間もなく東の国の関所付近に近付きます」
「そうか。ご苦労だったの、女郎(じょろう)」
女郎と呼ばれた女性は、恭しく頭を下げる。
老人は、スックと立ち上がった。
「先の戦から数百年…神野も喉元過ぎて、熱さ忘れたと見えるわ」
その言葉と共に、闇の中に蝋燭の火が自然と灯される。
その仄明るい火に照らされたのは、百鬼夜行、人外妖怪の群れ、群れ、群れ。
「者ども、出あえ。東の妖(あやかし)の眷属頭領・山ン本 五郎左衛門(さんもと ごろうざえもん)の命令である」
老人とは思えぬ張りのある、それでいてドスの効いた声で、山ン本は言った。
「西の者どもを、一匹残らず根絶やしにする」
その言葉に、地獄の底から這い上がってくるような雄叫びが、闇の中に轟いた。
古く、目の粗くなった畳に正座したまま、老人が目を閉じている。
と。
「頭領」
黒い喪服、日本人形のような髪型の若い女性が老人の背後に音もなく現れる。
「確認しました。間もなく東の国の関所付近に近付きます」
「そうか。ご苦労だったの、女郎(じょろう)」
女郎と呼ばれた女性は、恭しく頭を下げる。
老人は、スックと立ち上がった。
「先の戦から数百年…神野も喉元過ぎて、熱さ忘れたと見えるわ」
その言葉と共に、闇の中に蝋燭の火が自然と灯される。
その仄明るい火に照らされたのは、百鬼夜行、人外妖怪の群れ、群れ、群れ。
「者ども、出あえ。東の妖(あやかし)の眷属頭領・山ン本 五郎左衛門(さんもと ごろうざえもん)の命令である」
老人とは思えぬ張りのある、それでいてドスの効いた声で、山ン本は言った。
「西の者どもを、一匹残らず根絶やしにする」
その言葉に、地獄の底から這い上がってくるような雄叫びが、闇の中に轟いた。