パドックで会いましょう

先輩から聞いた話は、僕がねえさんから聞いた父親の話と同じだった。

でも、違ったのはその後だった。

「こいつ、中学出て就職先で真面目に働いてたんやけど、このオトンがまた莫大な借金こさえて来よってな。アホやから、ヤクザがやってるヤミ金に手ぇ出したんや。そんで、借金の肩代わりさせられそうになって…。」

そのヤクザな借金取りは、稼ぎのない父親よりも若くて美人な娘に稼がせようと、ねえさんを風俗に連れて行こうとしたらしい。

もちろんまだ中学を卒業したばかりだから、裏で提携している風俗店で、年齢をごまかして働かせようとしていたようだ。

その隙をついて逃げ出したねえさんは、藁にもすがる思いで、中学3年の時の担任の先生の元へ逃げ込んだ。

ハッキリとした約束はしていなかったけれど、ねえさんと担任の先生は、在学中からお互いに想いを寄せ合っていて、人知れず秘かに交際をしていたそうだ。

そしてある日、先生はねえさんを連れて、二人を知る人のいない遠い場所へ逃げた。

父親と借金取りに来たヤクザたちが、必死になって近辺を探していたと先輩は言っていた。

父親からの暴力や借金の事、先生と付き合っている事など、ねえさんから相談を受けていた先輩は、誰に何を聞かれても知らないとシラを切り、とにかく二人が無事に逃げ延びてくれる事を願っていたそうだ。

だけどそんな願いも虚しく、数ヶ月後、二人は連れ戻された。

事故に遇い、二人とも大怪我を負っていたそうだ。