そう言うと、歩は更に眉を下げてもうしわけない顔になってしまった。


まるで怒られた犬のようで、少しだけ可愛いと感じてしまう。


「とにかく、今日1日を乗り越えなきゃね」


自分たちの教室が見えてきて、あたしはそう言った。


あたしは歩として、歩はあたしとしてちゃんと1日を過ごすんだ。


「うん」


歩が頷き、あたしたちは少し距離を置いて歩き出した。


元々そこまで仲がいいわけじゃないから、一緒に歩いている事は不自然なのだ。


「よぉ、歩!! 昨日は大変だったな!!」


教室へ入ると同時に、歩と仲の良い荒川純(アラカワ ジュン)が声をかけて来た。


純は背が高く、校内でもイケメンの部類に入る。


しかし趣味は歩と同じスプラッター映画の鑑賞で、あまり女の子に興味がなさそうだった。


そんな純に声をかけられて、あたしは一瞬固まってしまった。


歩とは何度か会話をしたことがあったけれど、純と一対一で会話をするのは初めてのことだった。


「あ、あぁ。大変だったよ」


ぎこちなくそう返事をして笑顔を浮かべる。


つい演技くさくなってしまったけれど、純は気が付いていない。