『――しかし、ただでは助けられない』


天上の声が冷ややかに告げる。


『その者の命を救ってやる代わりに、お前の最も大切なものを私に捧げよ。それでもいいか。お前はその者のために、最も大切なものを捨てられるか』


試すように問われて、君は小さく笑った。


「……最も大切なもの?」


冷えきった頬に、ぽとり、となにかが落ちてきた。

君の涙だ。

木洩れ陽のようにあたたかくて、湧き水のように澄みきった、きれいな透明の、涙の雫。


「大切なものは、ひとつしかありません。でも、それは、あげられない」


君が力なく言った。


「あげたくても、できない。だって、たったひとつの大切なものは……」


そっと頬を撫でられる感覚。

優しい指が、頬を濡らす涙をすくいとった。


「今にも失われかけているから……」


君の声が耳の奥まで忍びこんできて、どうしようもなく冷たくなっていくこの身体を満たす。


『それでは、他のものを頂こう』


天上の声がそう言うと、君は小さく頷いた。