「行ってきます」


玄関で声をあげると、佐絵が奥のリビングからひょっこりと顔を覗かせて、「行ってらっしゃい」と手を振った。


「気をつけてー」

「うん、ありがとう。佐絵も帰り遅くなるんだから気をつけてね」

「はーい」

「じゃあ、行ってきます」


今日は部活が午後からだといって遅めの朝食をとっている佐絵に手を振り、玄関のドアを閉めて鍵をかけた。


七月も半ばになると、夏らしさは一気に加速する。

見上げた空は、日に日に青さを増して、きれいに澄みきっていた。

ぷかぷかと浮かぶ雲も密度が高くなり、太陽の光を受けて眩しいほどに白く輝いている。


駅に向かって歩いているうちに、ほんの十分ほどの道のりなのに、額や背中に汗が滲んできた。


夏は暑くて苦手だった。

でも、今年の夏は違う。

きっと特別な夏になる、そんな予感がしていたから、来週から始まる夏休みが楽しみで仕方がなかった。


期末テストも終わり、もう半分は夏休みみたいなものなので、私たちは今日、不思議探しの本格調査をする予定になっていた。


待ち合わせよりも少し早く駅に着く。

まだ誰も来ていないようだったので、日陰に入って読みかけの本を開いた。