「なんなのよ、もう、わけわかんない。せっかく不思議話見つけたと思ったのに、そんな反応なんだもんなあ。なんか盛り下がっちゃったよ」


梨花ちゃんが唇をとがらせて言うと、雪夜くんが「ごめん」と呟いた。

謝られた梨花ちゃんは驚いたように目を剥く。


「えっ、なに、びっくりした……雪夜が謝るなんて」


そう言われて、雪夜くんはむっとしたように眉をひそめる。


「俺だって謝ることくらいあるよ。自分が悪いと思えば」

「へえ……なんか意外」

「は? 悪かったら謝るのは普通だろ。失礼だな」

「それはごめん」


二人のやりとりに嵐くんが弾けるような笑い声をあげて、同時に梨花ちゃんと私も笑った。

雪夜くんだけは相変わらず不機嫌そうだったけれど、いつもよりは柔らかい表情に見えた。


あたたかい気持ちになって、なんとなく顔を仰向ける。

三人の笑い声が、しゅわしゅわと弾けるソーダ水の泡のように空へと昇っていくような気がした。


水彩絵具の青を薄くのばしたような淡い空に、柔らかいわたあめのような雲がふわふわと流れている。

風が吹くと、少し汗ばんだ首筋がさっと涼しくなった。


なんだかとても楽しい。

高校に入って初めての夏。

今年の夏は、とても楽しい夏になりそう。


そんな予感に胸を膨らませて、私は微笑みながら初夏の空を見つめていた。