ヴァンパイアの国が永遠の夜とは知らないアオイ。
そのため、空が暗く、月が輝いていれば夜だと思い込んでしまうのも無理はない。

実際使者としてこの国を訪れた時のアレスがそうだったように、王やその側近の者たち以下の間では外の国の話はあまり知られていないのだ。

そして五大国の王を集めた話し合いなどここ百年間は設けられたことがなく、今はそれぞれの王が親交のある他国の王のもとを訪れるくらいに留まっている。

しかしヴァンパイアを心底憎んでいるキュリオでさえ、この国を訪れたことがある。
現王・ティーダの先代にあたるヴァンパイアの王は幾分ましだったのだ。

先代の王はティーダのように何度も悠久を訪れてはちょっかいを出してくるような人物ではなく、稀に見る無駄な諍(いさか)いを苦手とした落ち着いた人物だったからだ。


それがティーダの代になってからというもの、親交などという意味合いでの訪問は皆無だ。

そもそも清く光の中に生きる代表のような悠久の王と、闇に生きる血に飢えた殺戮者のヴァンパイアの王は相反する立ち位置にあり、このかたちが当然なのかもしれない。

更に輪をかけてキュリオがティーダを嫌う理由は他にある。


彼がキュリオの愛娘であるアオイを気を入っているからだ。

その気になればいつでもティーダを力でねじ伏せることなどキュリオには造作もないため、今はただ様子を伺っているに過ぎない。


ずっと温和で柔軟だと思われていたキュリオがここまで冷酷になれるもの、彼女(アオイ)の存在がどれほど大切で譲れないものかがはっきりとわかる。


その彼女がティーダに囚われていると知れば、激怒したキュリオは一国を滅ぼすことも厭(いと)わないだろう。


そして、彼(キュリオ)の愛を一身に浴びてきたアオイも気づき始める。





―――彼の意に反する選択をすればキュリオが壊れる―――…





だからこそアオイはこの青年に甘えるわけにはいかない。
ここから脱出し、悠久に…キュリオのもとに戻ることが青年を守ることにつながるのだ。