そして、もう一つ。


その物音の正体を、この目で何としても見てみたかったからだ。


しかし、こう毎日真夜中に城内を歩き回っているのに、一度たりともその音を聞いたことがなかった。



「どうして私だけ聞こえないのよ…!」



しん、と静まり返る廊下に私の声だけが無情に響き渡る。



「こんなことを言っても仕方ないし、お茶の時間にでもしようかしら…」


年季のはいった懐中時計を取り出して、その針を確認してみると、ちょうど短針と長針がてっぺんで重なっていた。


青白い光が文字盤に反射して、小さな光が浮かぶ。






「…今日は、いつになく寂しい月ね…」




ふと、空を仰ぐと、そこにはただひとつ丸い月が、こちらを見下ろしている。




嘲笑っているのか、微笑んでいるのか、それを汲み取ることなんて出来ないが、ただ柔らかい光が私を包んでいた。