「…離して…! …追いかけないと…!」 「追いかけて何になる」 「…何にも、なるわけないじゃない。 でも、どうしようもないくらいに腹が立つの」 「お嬢さんが、関わることはない。 こういうことはよくあるんだ」 「それでも、一発くらい殴らないと気が済まないの」 大切な人がなくなる悲しさを、私は知っている。 だからこそ、我慢できないくらい、腹が立つ。 私は、掴まれた腕を振り払い、駆け出した。 「…お嬢さん…!」 背後で私を呼んだ声に、ほんの少しだけ、申し訳なく感じながら。