静まりかえる。
思考停止しているのか言葉を探しているのか、見上げないと彼の顔は分からないけれど、私は見なかった。
やがて彼が身じろぐ気配がして。
「じっ」
力のある声が降ってきて。
「こちゅーーーーーーーー女が」
その声が吐き捨てられて。
……って、え。
「どこがかっこ悪ぃんだよ。なんで勝手に思い込んで勝手に別れ話して来んだよ。言えよ。一緒に考えさせろや」
思わず顔を上げて目を合わせると、さっきまでとは違って見えるその表情は明らかに怒っていた。
言葉も分かりやすくトゲトゲしている。
「俺は高1で付き合ってからお前が泣いてんの見たことなかった。溜め込んで溜め込んで爆発してんじゃねえよ。そういうのはかっこ悪いことじゃねえんだよ」
一言一言吐き捨てるように浴びせかけられて、あっすごい怒ってる、と気付く。
吐き捨ててるのに言い聞かせるみたいに、ちゃんと私に目を向けて言うから、こっちからも目がそらせずにいる。
「何のための俺だったんだよ。頼れよ」
「……別に、頼るために付き合ったわけじゃ」
「うるせぇ石頭。一緒に生きてえから付き合ったんだろ」
「…………」
「……うまく聞き出せなかった俺、も、わるいけど」
最後は途切れ途切れに尻すぼみになる彼を見上げて、心の中で深呼吸を繰り返す。
じんわり目が熱くなって、なんだか泣きそうだ。溶けそうだ。理由は分からない。だけどまだ。
ごめんね。
カラスが頭上を羽ばたいた。
「……あのね」
今だ。口を開け。
「それでその1週間後、私、事故にあったんです」


