私の声を待って耳を傾けたり馬鹿正直に自分の気持ちを語ったり。
───ああ、この人には話さなければならない。全部。
そう、全部を。
「私、大学には行かないんです」
こちらを見下ろす彼越しに見える青空をしっかり認識してから私は口を開いた。
力を、借りてしまおう。
「……は?」
「私の母親の話、知ってますか」
「…………鬱に、なったってやつ?」
慎重に彼は口を開いた。座って頷く私をそっと見下ろして、また耳を傾ける。
「そう。その、最悪な時期を救ってくれた臨床心理士に憧れて、私は心理学に進むって、決めたんだけど」
「……それも聞いた。文学部心理学科受験するって、ドヤ顔で言ってただろ」
「そう、なんだけど」
「行かないって何」
無機質な声が耳に届く。さっきまで聞こえていた風の音も聞こえない。
目の前の彼の声と、自分の息づかいだけ。
「……絶対行くって決めてたから、報告した、のに」
言葉の最後が揺れる。感情が混ざりあって重たい。
「うん」と彼は頷いて、先を促す。
「……諦めたんです」
「なんで」
「…………」
「お前が何の理由もなく自分の言ったこと曲げる奴じゃねえことは知ってんだよ。なんでだ」
言葉を絞り出したくてもなかなか出てこない私に、彼は畳み掛けた。
ここで引いたら私はもう2度と本当のことを言わないって、分かってるのかもしれない。


