この制服もこの屋上も、ここから見上げる空も見下ろす街も、もう2度となくなる、卒業ですね。
ここで吸う空気も飲みほす紙パックジュースも、ここで会うあなたももう2度と現れない、そんな。
3年間のすべてを校舎に染み付かせて、ものすごい速度で剥がれ落ちる思い出にさよならと言って離れていく、そんな。
そんな、そんな。
「春からお前大学だろ。心理学科だっけ。俺は地元だからもう偶然でも顔合わすことねえんだろうなぁ」
「……あ、あぁ、はい」
また沈黙がふたりを取り囲んで空気とまざり合う。
彼はイラついたようにため息をひとつ。大きく音を立てて、椅子から立ち上がった。
「つーか手ぇベタベタしてイラつく。洗ってくる」
「え、あ、はあ」
スタスタ歩き乱暴にドアを開け閉めして、彼は屋上を出ていった。
いちいちやることが急で嵐みたいだ。
対照的に穏やかな空を見つめ、私はゆっくり息を吸って、吐いた。
なんだかどっと疲れたような。一応緊張していたのかもしれない、私も。
気が重いだけならよかったんだけど。
足を折り曲げて抱え込んで、私はせまい椅子の上で器用に体育座りをする。持っていたいちごミルクをゆっくり堪能。うぅん、甘い。


