タクシーに戻ると運転手が言った。
「この辺りは風情があっていいでしょう」
雅喜は、
「そうだな。
だが、浴衣でウロウロするというのはどうかと思うが」
と言いだした。
「温泉街の風情、全否定じゃないですか」
と真湖が言うと、
「男はいいんだ。
女性が湯上がりに浴衣姿でうろつくのはどうだろうな」
と言ってくる。
「どんな男尊女卑ですか」
と言うと、運転手が笑って、
「そうじゃないでしょう〜」
と言った。
「いや、湯上がりの女性がたくさん居るのは色っぽくていいなーと私なんかも思うんですけどね。
自分の女房とかを他の男がじっと見てたりするのはちょっと嫌ですねー」
ふうん。
そんなものか、と思った。
雅喜はなにも言わない。
でも、この人、別に彼女と来てるわけじゃないしな。
私は今、浴衣じゃないし。
彼女じゃないし。
ああ、昼間は浴衣だったけど、と思った。
……それで機嫌が悪かったんじゃないだろうな。



