部屋で懐石料理をいただいて、仲居さんが入れてくれたお茶で一息ついた。
「なにかもうこのまま、ぼーっとしてたいです」
と真湖が言うと、仲居さんが笑い、
「どうぞ、お好きなだけ、ぼーっとしててください。
そのための宿ですから」
そう言って出て行った。
ライトアップされた露天風呂を眺めていた真湖は、またあの道後温泉を思い出していた。
「子供の頃、よく道後温泉に行ってたって言ったじゃないですか。
もう、うろ覚えなんですけど。
おじさんが手を引いてくれて、夜、旅館からあの道後温泉本館まで歩いてたんですけど。
その道が、縁日みたいに賑やかで。
提灯かなにかの赤い光が並んでたんですよ。
さすがに毎日、縁日立ってないですよね。
幻ですかね?」
と今目に入る人気のない静かな庭を見ながら言うと、雅喜は、
「子供の記憶は案外、確かなもんだぞ」
と言ってくる。



