「課長。
これは……家ですよね?」
これは、でっかい家ですよ、と泊まる建物に案内された真湖は言う。
ネットや旅行雑誌の写真などで見てはいたが、実物は迫力が違った。
道後温泉からはかなり離れた場所にその旅館はあった。
贅沢なまでに広い庭に、植えられている木々が気持ちの良い風にそよいでいる。
うちの実家の庭より、遥かに立派だ。
いや、そもそも比べることが間違っている。
「このお部屋、なかなか予約取れないんですよ」
と案内してくれる仲居さんが言う。
たまたまキャンセルが出たタイミングで取れたようだった。
恐ろしい世の中だ。
「安いものばかりが売れるかと思いきや、高いものも人気なんですね〜」
「なにか大きな特徴があるものが売れるってことだろ。
特別安いのが売りか。
特別豪華なのが売りか」
仲居さんについて長い廊下を歩きながら、横目に雅喜を見て言う。
「課長、驚かないですね〜。
……さては、此処、泊まったことありますね?」
今、課長やめろ、という顔を雅喜はした。
確かに、役職名で呼ぶと、なんとなく、不倫カップルな感じがしてしまう。



