課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜

「しゃべれるんですか? 英語」
と言うと、

「しゃべれないのか」
と言われてしまう。

 ああ、まあ、いまどきみんな、英会話教室とか行ってますもんね~。

 うちの課長クラスだと、しゃべれないとまずいだろうし、と思っていると、
「まあ、お前は日本語が達者だから、いいんじゃないのか」
とよくわからないフォローを入れてくれる。

 旅の初めから喧嘩したくない思いは一緒だからだろうが。

 だが、それって単に私がおしゃべりだと言われているのでは、と思ったそのとき、車内販売が来た。

「あっ、課長っ。
 獺祭とか売ってますよっ。

 あんまり手に入らないのにっ」

 車内販売のおねえさんの押すワゴンに、獺祭のポスターが貼ってある。

 値段も手頃だ。

 小瓶のようだ。

「吞みませんか?
 私吞みます」

 通り過ぎてしまっては困るので、早口に言う。

 程よく、隣のおじさんがコーヒーを買ってくれていた。

「……この間、もう吞まないと聞いた気がするが、あれは幻聴か」

 幻聴ですっ、と誘惑に負けた真湖は言い切り、ワゴンに再び手をかけたおねえさんに、
「すみません。
 獺祭二つ」
と慌てて頼んだ。